前回の続き。
都議会議員秘書に辞表を出してから約1か月。その間、一度も事務所には顔を出しませんでしたが、お世話になった支持者の方々にお詫びの訪問を行いました。ある地区の支持者の方々には送別会を開いてもらい、私の退職に残念で、涙を流す方もいました。退職するということは、自分一人のことではなく、いろいろな人の未来も変えてしまうことなのだとつくづく感じました。
そういう思いを抱きつつ、8月1日、新しい職場への入社の日を迎えました。
就業時間の30分前に受付で呼び鈴を鳴らし、応接室に通されました。
しばらくすると女性社員が呼びに来て、副社長室に通されました。
そして辞令交付。
副社長から辞令の内容を伝達されました。
「職員を命ずる。社長室勤務を命ずる」
社員になったのだという実感と、配属部署の意外さに驚きました。
議員秘書時代は外回り中心でしたから、てっきり営業をするのだとばかり思っていました。私の特性としても営業が向いていると思い込んでいました。
「社長室」。社長室という「部屋」はあっても部署があるとは思わなかったんですね。
辞令交付ののち、上司となるY専務、K次長とあいさつを交わし、その後「自分の机」に連れていかれました。
社長室はY専務(社長室長)、K次長、一般職の女性2名と私の5名が部員です。
昔ながらの灰色の事務机と椅子が私の席でしたが、きれいに掃除され、机の中には真新しいホッチキスや直線定規、ボールペンなどの文房具が一式用意され、机の上には「マイカップ」がありました。
これにはとても感動したのを覚えています。会社が私を社員として、会社の一員として迎えてくれたのだと実感した瞬間でした。
その後、K次長から一通り社長室の仕事についてレクチャーされました。
そこで知ったのは、社長室という部署が、経営企画・人事・研修・秘書・広報を担当する部署だということ。
それぞれの業務の名前は知っていても、何をするのか全く分からないままレクチャーが終わりました。
席に戻ったのち、命令された業務は「本を読む」こと。
「竹村君。図書コーナーにたくさん本があるから、好きな本を読んでいて」とK次長から指示されました。
就業時間の17時まで本を読み続けました。
17時になって、さて、どうしようかと考えていたら、
「竹村君、就業時間が終了したのだから、帰りなさい」とK次長。
議員秘書時代は24時がほぼ定時帰宅時間だったので、まだ宵の口に帰れるのが不思議でなりませんでした。
実はそれから1週間、毎日本を読むだけの仕事が続きました。
こんなに仕事をしなくても給料をもらっていいのかと悩みましたが、後から思うとこの1週間は貴重な時間でした。業界を知る、会社を知る、仕事を知る時間であるとともに、「前職の垢を落とす」時間だったのです。
前職では一日16時間、ただただ動いていました。そういう癖のしみ込んでいる私に、机に座っていることに慣れ、頭を使うことを覚えさせる時間だったのだと思います。
その間、Y専務に言われたことで、印象的な言葉があります。
私が本を読みながら、じっとしているのに疲れたのを察したのでしょう。Y専務はわたしをY専務の自席の前に呼び出し、
「竹村君。会社って、休み時間は昼休みの1時間しかないよね。学校は1次元ごとに休憩時間がある。なんで会社には休憩時間がないのかわかるかね」
私が首をかしげていると、Y専務は、
「会社では、休憩は個人でとるものなんだ。休むと決めたら休む。オンとオフを自分で作るのが会社員なんだよ。休むと決めたら休む。それを咎めるものは誰もいないからね」
そこで初めて社会人、会社員というものが何なのか、一端を知ることができました。
続きは次回